ひきちガーデンサービスの日記

オーガニック植木屋の日常や雑感

「『おかえり』と言える、その日まで」読了

f:id:hikichigarden:20230813093957j:image私は山登りにはとんと興味がなくて、中学生の時に富士山の8合目まで自力で登ったのが最初で最後。とは言え、友人にはものすごいクライマーが何人かいて、彼女たちのSNSを見るたびに驚愕し、尊敬を覚える。

今回読んだ本は、民間の山岳遭難捜索チームの代表をしている国際山岳看護師の中村富士美さんのノンフィクション。

それまで山登りなどしたことのない著者が、地元の小学生が遠足で登るような里山で、いきなりふたつの遺体を見つけるところから始まる。

迷う理由はさまざまある。登山コースになっている沢の中を歩きたくなくて、道を逸れてしまう。間違ったと気づいた時に、歩きやすそうな横方向に移動してしまう。山から出たくてどんどん降りていき、沢で滑落してしまうなど。中には、山の仲間が春に撮った写真を頼りに登ったが、夏で草が深くなっていて迷ってしまったり…。時には方向を示す→(矢印)が風で動いてしまっていることも。どんな簡単そうな山も、どんなに山に慣れていても、落とし穴はたくさんあるのだ。

この著者のすごいところは、家族や山仲間から遭難者の性格や日頃の行動などを聞き出し、徹底的なプロファイリングをするところ。それによって、遭難者が山でどういう行動をして、どういうルートを取るのかを推測するのである。

時にはクレジットカードの記録から履いていたズボンを洗い出したり、家に残っている山用品と今までの登山写真とを見比べて、何を着て行ったのかまで推測する。まるで刑事のような捜索ぶり。

しかし、それだけではなく、遺された家族たちに寄り添い、一年以上も相談に乗ったり、心のケアも事細かにしていることにも驚かされる。

山に登る時には必ず入山届けをし、家族や知人にも行程を渡し、山岳保健にも入った方がいいのだということもわかった。できれば、登る時の服装を写メして、家族や山仲間に送っておいてもいいのかもしれない。着ていたもので、発見される確率は大きい。しかも、発見されやすい色は赤や黄色だと思い込んでいたが、「青色が自然界にはない色なので見つけやすい」ということも、初めて知った。

登山という私の未知の世界をこの本は垣間見せてくれた。それも遭難捜索という特殊な登山で。なんとなくだが、この本はドラマになるんじゃないかという気がした。興味深いと言ったら失礼だが、それぐらいの内容であった。